口腔ケアとは?高齢者の健康寿命をのばす正しいケア方法

「口腔ケア」をご存じでしょうか?
加齢とともに体の機能が衰えると、噛む・飲み込むといった口腔機能も低下し、口腔内の清潔さを保つことが難しくなってきます。特に高齢者は、ご本人だけでは十分なケアがおこなえないことも多く、ご家族や介護職者など周囲の支援が欠かせません。
この記事では、口腔ケアの重要性や期待できる効果、日常生活で取り入れやすいケア方法をご紹介します。
目次
口腔環境の変化に欠かせない口腔ケアとは?
高齢者の口腔環境の変化とオーラルフレイル
「オーラルフレイル」は「オーラル(口)」と「フレイル(虚弱)」を組み合わせた用語で、口腔機能の軽度な衰えが、全身の健康や生活機能の低下につながることを示した概念です。
例えば、歯や舌の動き、噛む力・飲み込む力(嚥下機能)のわずかな低下を放置すると、食事の困難や栄養状態の悪化につながることがあります。さらには身体活動や認知機能の低下へと影響が広がる恐れがあります。こうした変化にいち早く気付き、適切な口腔ケアを行うことは、オーラルフレイルの進行を防ぎ、介護予防につなげる上で重要な取り組みとされています。
口腔ケアとは
「口腔ケア」とは口腔内を清潔に保つことに加えて、口腔機能の維持・回復を目的としたリハビリや、専門的なケアまで含む幅広い取り組みを指します。例えば、歯や入れ歯の清掃、噛む力・飲み込む力を高めるトレーニングなども含まれます。
口腔ケアの目的は、むし歯や歯周病といった疾患の予防に加え、口腔機能の維持、生活の質(QOL)の向上など多岐にわたります。また、高齢者にとっては、誤嚥性肺炎や認知症などの予防にもつながる大切なケアです。

一般的な口腔ケア
- 歯科検診
- 口腔清掃
- 入れ歯の着脱とお手入れ
- 噛む・飲み込む動作のリハビリ
- 歯ぐき・頬のマッサージ
- 食事の介護
- 口臭の除去
- 口腔の乾燥予防
なぜ高齢者に口腔ケアが必要なのか
高齢者の口腔内は、加齢に伴いさまざまな変化が起こりやすくなります。
特に、既存の疾患や服薬の増加、体力や免疫力の低下などが重なることで、口腔内トラブルが進行しやすくなるため、日常的な口腔ケアが重要です。
口腔ケアと全身疾患の関係
口腔内の衛生状態は、全身の健康と密接に関わっていることをご存じでしょうか。特に歯周病は、心臓病・脳血管障害・糖尿病などの生活習慣病と深く関連していることも明らかになってきています。
また、咀嚼機能の低下や細菌の増殖は、誤嚥性肺炎や認知症のリスク因子ともされており、定期的な口腔ケアはこれらの予防にもつながります。
なぜ、高齢者の口腔ケアが必要なのか以下でご紹介します。
入れ歯・補綴物の管理が難しい
高齢者の多くは入れ歯や補綴物(つめ物・かぶせ物)を使用しています。加齢や歯周病による歯ぐきの後退、また、補綴物の中でむし歯が進行している場合もあるため注意が必要です。

唾液分泌の減少による悪影響
唾液には、口腔内の汚れや細菌を洗い流す「自浄作用」があります。しかし、加齢や薬の副作用などによって唾液の分泌量が低下すると、この作用が弱まり、むし歯や感染症のリスクが高まります。
また、口腔内が乾燥することで「噛む・飲み込む・話す」などの日常生活動作にも支障が現れる場合があります。

むし歯・口腔粘膜疾患が増えやすい
口腔内のケアが不十分だと、汚れや細菌などが口腔内で増殖し、むし歯や歯周病の原因をつくりだします。
また、加齢に伴い免疫力が落ちることで歯周病や口内炎、水疱などの口腔粘膜疾患を進行させます。

認知症・QOLへの影響
近年、認知症の予防に口腔ケアが効果的だということが報告されています。よく噛んで食べることで脳が刺激され、認知機能の向上につながります。
一方で、口腔ケアを怠ってしまうと歯を失う可能性が高くなり、噛むことができず咀嚼機能が低下していきます。その結果、食事から必要な栄養が摂取できず、認知機能に加えさまざまな運動機能低下に影響が出ることが考えられます。

口腔ケアのメリット
口腔ケアは口腔の健康を守るだけでなく、全身の健康や生活の質(QOL)にも関わります。ここでは、主なメリットをご紹介します。
誤嚥性肺炎の予防
誤嚥性肺炎は、高齢者に多い肺炎の一種です。高齢者は特に、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管に入りやすく、それが口腔内の細菌とともに肺へ送られることで発症します。
定期的な口腔清掃によって口腔内の細菌数を減らすことで、肺への細菌の侵入リスクを下げ、誤嚥性肺炎の予防につながります。
認知症の進行予防
歯周病は全身疾患のリスクを高めるだけでなく、認知症を発症・進行させるしくみが明らかとなっており、口腔清掃による歯周病の予防は認知症の予防にもつながります。
また咀嚼運動は、脳を刺激するほか酸素と栄養を送ることから、認知機能低下を予防する効果があるといわれています。健康な歯を失っても、人工の歯で噛める状態にして維持していくことが、認知症の予防に有効です。
口腔乾燥症(ドライマウス)の予防
軽度では主に口腔内のネバネバ感や、ヒリヒリするといった症状のほか、むし歯・歯垢の増加・口臭が強くなる場合があります。重度になると、唾液の分泌量が低下して口腔内の乾きが進行し、強い口臭や舌表面がひび割れることがあります。
その結果、痛みで摂食障害などを起こしたり、会話がしにくいためにコミュニケーションへの影響なども現れます。唾液腺マッサージなど、症状に合わせたケアが重要です。
生活の質(QOL)の向上
口腔ケアは、生活の質(QOL:クオリティ・オブ・ライフ)を高め、 口腔から全身の健康維持にもつながります。「好きなものを食べる」「会話を楽しむ」「元気に笑う」などは、「その人らしさ」を引き出す大切な要素です。
口腔環境や機能の低下は、健康面だけでなく心理面への影響も大きいため、高齢者の生活の質維持のためには、口腔ケアは欠かせません。
基本的な口腔ケアの方法
- STEP1:口腔内の保湿とうがい
- 口腔内が乾燥した状態で口腔ケアを行うと、汚れがこびりついていて、取り除くのに時間がかかります。口腔ケアの前にブクブクうがいをするなど、保湿をおこなうことで、汚れを落としやすく、負担の少ない口腔ケアができます。
乾燥が気になる方は、潤いを与える低刺激タイプの洗口液が効果的です。

- STEP2:歯磨き
- 歯ブラシは鉛筆を持つように持つと、余計な力が入りにくく、小回りがきくため、細かな部分までしっかりと磨くことができます。また、握力が低下している方は、歯ブラシを手のひら全体で握ると力を入れやすくなります。
歯磨き剤は、パッケージに記載されている適量を使いましょう。誤嚥の心配がある場合は、発泡剤の含まれていないジェルタイプの歯磨き剤を使用するのがおすすめです。

- STEP3:粘膜・舌のケア
- 粘膜や舌のケアは、口腔全体の健康を保つ上で欠かせない重要なケアです。歯ブラシやスポンジブラシを水で湿らせて、頬の内側や唇の内側・歯ぐき・上顎・舌などの汚れをやさしく取り除きましょう。
また、舌専用ブラシは、歯がない方にも使用できるためおすすめです。無理のない範囲で、奥から手前に向かって軽くブラッシングしましょう。

- STEP4:入れ歯の洗浄と管理
- 入れ歯は、毎日の食事や会話を支える大切な器具です。口腔内トラブルや感染症予防のために清潔を保ちましょう。入れ歯は毎食後に外し、流水で軽くすすいだり、入れ歯専用ブラシで磨きましょう。
毎食後が難しい場合は、すすぎだけでもおこない、1日1回はしっかり磨くよう心掛けましょう。
また、就寝時などは市販の入れ歯洗浄剤を使用することもおすすめです。

口腔ケアをスムーズに行うために
口腔ケアは、単に清潔を保つだけでなく、口腔機能の維持に加え、全身の健康にとって重要なケアであることをお伝えしました。
ここでは、介護者さまとご本人の双方にとって無理なく安全に口腔ケアを行うための基本的なポイントご紹介します。
口腔ケアのタイミングと姿勢を整える
口腔ケアは基本的に毎食後におこなうのが理想ですが、高齢者とその介護をおこなう人の生活リズムに合わせて、無理なく継続できるタイミングを選ぶことが大切です。
実施時には、姿勢にも配慮しましょう。誤嚥を防ぐため、座位または半座位(枕などを使用し上体を30~60度起こす姿勢)が推奨されます。ベッド上でおこなう場合は、顎が上がりすぎないよう注意することがポイントです。

高齢者の状態に応じたケア方法を選ぶ
口腔ケアでは、できることはご本人さまに任せましょう。歯磨きやうがいなど、可能な範囲を見極めて任せることで、自立支援を促し、尊厳を守ることにもつながります。
介助が必要な場合は、口をしっかり開けられるか、痛みがないかを事前に確認しましょう。開きにくい、痛みがあるなどの場合は、無理にケアをせず、歯科医師へ相談することが重要です。

セルフケアと専門家のケアを組み合わせる
日々のセルフケアに加えて、歯科医師や歯科衛生士による専門家によるケアを取り入れることで、より効果的な口腔ケアが可能になります。
高齢になると、口腔の変化に気付きにくくなるため、定期的にクリーニングや必要に応じた処置をおこなうことが重要です。また、専門家の視点から口腔ケアのアドバイスを受けることができるため、積極的に活用しましょう。
通院が難しい方には、訪問歯科などのサービスも利用可能です。セルフケアと専門ケアを適切に組み合わせることで、口腔の健康を長く保つことができます。

口腔ケアに使うケア用品
基本のケア用品
- 歯ブラシ
交換の目安は1か月です。使用後は流水で10秒ほど洗い流し、歯ブラシの汚れを取り除きましょう。 - 電動歯ブラシ
歯ブラシのヘッドが動くため、通常の歯ブラシよりも歯垢を効果的に落とすことができます。 - 入れ歯専用ブラシ
毛の部分の面積が広く入れ歯の清掃に適しています。 - コップ
落としても割れないようにプラスチック製で、取っ手が付いていると安全に使えます。
必要に応じて使用するもの
- 歯間ブラシ・デンタルフロス
歯と歯のすき間の清掃に適しています。歯ブラシでは届かないすき間の歯垢を絡め取ることができます。 - 舌ブラシ
舌苔(ぜったい)の清掃に適している舌ブラシは、歯ブラシよりも毛が柔らかくできていて嘔吐反射がでにくくなっています。 - 洗口液
洗口液は乾燥しがちな口腔内に潤いを与えながら、やさしく洗浄する低刺激タイプがおすすめです。 - 歯磨きジェル
研磨剤を含まないため、またはごく少量の歯や歯ぐきにやさしいジェル状の歯磨き剤です。 - スポンジブラシ
先の部分がスポンジのブラシで 口腔に入りやすく、ケアしたい部分や用途に合わせて使い分けがしやすくなっています。口腔内のケアに役立つ便利な使い捨て器具です。 - 保湿剤
乾燥しがちな口腔内に潤いを与える保湿ジェルです。口腔ケアの前後や就寝前などに塗布するとより効果的です。 - 口腔ケア用ウエットティッシュ
ノンアルコールで保湿成分が入っています。指に巻いて、口腔内の汚れを拭き取るために使います。 - ガーゼ
柔らかく、口腔内を傷付けにくいため、口腔マッサージをおこなう際に使用するのがおすすめです。汚れの清掃にも適しています。 - ガーグルベースン(のう盆)
洗面所以外の場所でうがいをする際に受け皿として使用します。
まとめ
高齢者の口腔ケアは、むし歯や歯周病の予防だけでなく、誤嚥性肺炎や認知症といった全身の疾患予防にもつながる、非常に重要なケアです。
しかし、ご本人さまやそのご家族さまだけで日常的なケアを続けることが難しい場合も少なくありません。
私たちDSセルリアでは、日々の介護や看護のなかに、専門的な視点を取り入れた口腔ケアの支援をおこなっています。一人ひとりの口腔状態に合わせたケアや、ご家族へのアドバイスも丁寧に行い、健康寿命の延伸とQOLの向上を目指しています。
ご不安なことやお悩みがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
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