オーラルフレイルとは?体の健康にはお口の健康が重要
最近、食事を食べこぼすことが増えた。やわらかいものばかり好んで食べるようになったなど、ご自身やご家族に心当たりはありませんか?
もしかしたらそれは、「オーラルフレイル」かもしれません。
この記事では、お口と身体の健康に関する「オーラルフレイル」についてご紹介します。
オーラルフレイルとは
フレイルとは
「フレイル」とは「虚弱」のこと。
加齢にともなって心身の活力が低下した状態を指し、健常から要介護へ移行する中間の段階です。この「フレイル」の概念は日本老年医学会が2014年5月に提唱しました。
加齢により筋力が衰え、疲れやすくなる。運動をしなくなってしまったり、家に閉じこもりがちになる。年齢を重ねたことで生じやすい衰え全般を指しています。
脳疾患などの疾病や事故などにより、健常な状態から突然要介護状態に移行することもありますが、高齢者の多くの場合フレイルの時期を経て、徐々に要介護状態になっていくと考えられています。
また、フレイルは身体的問題だけはありません。認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題、一人暮らしによる孤立や経済的困窮などの社会的問題が含まれる、多方面に関わる概念です。
オーラルフレイルとは
「フレイル」に「オーラル=口」を合わせた言葉が「オーラルフレイル」です。お口の機能が衰えるさまざまな状態を指す概念で、健康な状態から要介護とされる状態の間(フレイル期)に現れます。日常生活の中で何気なく感じているお口の衰えに対して、適切な対応を行わないままにするとお口の機能低下につながり、そして、身体全体の機能低下にもつながってしまいます。
オーラルフレイルには4つの段階があるとされ、「レベル3」「レベル4」の対応は歯科診療所で行われることとなります。
- レベル1 口の健康リテラシーの低下
- レベル2 口のささいなトラブル
- レベル3 口の機能低下
- レベル4 食べる機能の障害
例えば、滑舌が悪くなり話すことに消極的になってしまい、人や社会との関わりが減少する。食べこぼしや食べにくいものが増えたので、食事がおろそかになるなど、オーラルフレイルは全体的なフレイル進行との関係性が重要視されています。
フレイルから続く要介護状態にならず、健康で自立した生活を長く保つためには、少しでも早くオーラルフレイルに気づき、予防や改善に取り組むことが大切です。
早期のケアで口腔機能低下の緩和や回復の可能性、健康維持の効果もあることが分かってきています。
オーラルフレイルを知り、健康的に過ごす
現在日本は、超高齢社会という高齢人口が非常に高い状態が続いています。
今後も高齢化率は高くなるとの予測があり、医療や福祉などは特にこの問題への対応が求められています。
オーラルフレイルを知り、なぜ口腔ケアが必要なのか意識することで、これからの人生も健康的に過ごすことにつながります。
オーラルフレイルの症状
お口にはさまざまな役割があり、しっかりと機能することで心身の健康にもつながります。
- 「食べること」(噛む・すりつぶす・飲み込む・味わう)
- 「話すこと」(発音・会話・歌う)
- 「感情表現」(笑う・怒る)表情を作ること
- 「呼吸」
しかし、加齢などにより口腔機能が衰え、次のような症状が起きることがあります。
- 食事でよく食べこぼす
- 固いものが噛めなくなった
- やわらかいものばかり食べるようになった
- 口が乾燥しやすい
- むせることが増えた
- 滑舌が悪くなった
このような「ささいなお口のトラブル」が、実は「オーラルフレイルの症状」ということもあります。
オーラルフレイルのリスクチェック
ささいなお口の変化(オーラルフレイル)に気づくために、チェックリストとしてご活用ください。
チェック結果
- 合計0点~2点 オーラルフレイルの危険性は低いです。
- 合計3点 オーラルフレイルの危険性があります。
- 合計4点以上 オーラルフレイルの危険性が高いです。
誤嚥性肺炎の予防
口腔機能が衰退すると徐々に食べかすや唾液、痰などによる汚れが積み重り、さらに唾液の分泌量が減るため、口腔内の細菌が増加します。そのまま食べ物や唾液を誤嚥することで、口腔内の細菌が肺に入り起きる肺炎です。
口腔内の汚れや細菌を取り除くことで、発症リスクの低下につながります。また、日常的に口腔内を清潔に保つことで、嚥下機能の維持向上にもなります。
オーラルフレイルの予防は誤嚥性肺炎予防のほかにも、さまざまなメリットがあります。正しい口腔ケアを行うことで、オーラルフレイルの予防に取り組みましょう。
目的ごとの口腔ケア
口腔ケアとは、清掃やケアによってお口の中を清潔に保つことです。歯や口腔内の疾患を予防する、口腔機能の維持向上、全身の疾患予防という大切な役割を持っています。オーラルフレイルを予防するために、口腔ケアは欠かせません。
目的ごとに「器質的口腔ケア」「機能的口腔ケア」の2種類があります。
器質的口腔ケア
口腔内を清潔に保つためのケアです。
お口の中の細菌は歯周病や誤嚥性肺炎などにつながる恐れもあるため、うがいや歯みがき、歯と歯の間の清掃を通じて汚れを取り除き、細菌を減らすことで予防します。このとき歯の清掃だけでなく、舌や頬の内側、口腔内すべてを清掃することが重要です。
機能的口腔ケア
「食事をする」「コミュニケーションをとる」「表情をつくる」など日々の生活やコミュニケーションを担う、お口の働きを維持向上するためのケアです。
身体同様、お口も鍛えなければ衰えてしまいます。口腔内やお口周辺のマッサージ、飲み込む力を鍛える嚥下体操など、継続的なトレーニングが求められます。全身の健康のためにも器質的口腔ケアとともに行いましょう。
口腔ケアの基本的な方法
まずはお口の状態をチェックして、どのようなケアが必要かを確認。その後、ケアを行います。ご自身やご家族でお口の状態の判断が難しい、正しいケア方法が分からないということも多いです。そのため、歯科医院や訪問歯科で基本のケア方法を確認し、お口と全身の健康を支えましょう。
口腔ケアには次のような方法があります。
- うがい
- 歯を磨く
- 舌の清掃
- 口腔清拭
- 入れ歯の洗浄
- 唾液腺マッサージ
基本的なことですが、しっかりと行うことで、口腔機能の維持向上につながります。
ご高齢の方は口腔内が乾燥しているため、まずはお口の中を濡らして汚れをとりやすくするといった工夫も必要です。また、舌苔(ぜったい)が厚く舌に付着している場合は、気分が悪くならない程度に一回の清掃は短く、何度かに分けて汚れを落としましょう。
基本的なケアに加え、歯科衛生士や歯科医師などの専門的なケアは欠かせません。トータルリハセンターでは歯科衛生士が口腔機能訓練プログラムとして、口腔ケア(口腔清掃・感染予防)なども行なっています。
オーラルフレイル予防にトレーニング
オーラルフレイルの予防のために、お口の機能の維持・向上が大切です。
高齢になると体の筋肉と同様にお口周りが衰えてしまいます。オーラルフレイル予防のトレーニングは、食べるため以外にも会話や表情を豊かにすることにもつながります。
自宅や施設でも手軽にできますので、普段の生活にオーラルフレイル予防のトレーニングを取り入れてみてはいかがでしょうか。
ポイント
だ液を分泌しやすくする効果があるので食事前がオススメですが、「テレビを見ながら」「お風呂に入りながら」など、余裕ができたタイミングでリラックスして行なってください。
深呼吸
息を鼻から大きく吸って、お口からゆっくり吐きます。長く吐くようにしましょう。
肩の体操
- 息を吸いながら肩をゆっくりと引き上げます。
- 力を抜くように息を吐きながら肩をストンと落とします。
肩や首の筋肉をほぐして、深く呼吸をする体操です。
首の体操
- ゆっくりと後ろを振り返るように、首を動かす。左右ともに行いましょう。
- 耳が肩につくように、ゆっくりと首を左右に倒す。
- 首を前後に倒す。
- 首を左右にゆっくりと回す。
首には咀しゃくや飲み込むために必要な筋肉が多く集中しています。首の筋肉をほぐすことで食べるための準備にもなりますよ。
お口の体操
唇やお口周りのトレーニングです。お口周りの筋肉を鍛えることで、食べこぼしやむせを防ぐだけでなく、こわばってしまった表情をほぐすことにもつながります。
- 口を「ウー」とすぼめ、とがらせる。
- 「イー」としっかり横に開く。
「お口を大きく開けて、歯と歯でしっかりかみ合わせながら閉じる」動作を繰り返すことも、飲み込むための筋肉が鍛えられるのでオススメです。
舌の体操
- 舌をベーっとできるだけ伸ばす。
- 舌を喉の奥の方に引く。
- 舌で口の両端をなめる。
- 鼻の下、顎の先を触るように舌を伸ばす
舌がなめらかに動くようになるため、食べ物を飲み込みやくなります。また、発音障害(構音障害)などの症状の改善にも効果的です。
食事や会話をするために欠かせない舌や唇、頬、お口周りにも効果的な体操で、イキイキとした表情をつくることにもつながります。
発声トレーニング
まずは声を出してみましょう。
姿勢を正して「アー」と発声するだけでも、お口を開くための筋肉や軟口蓋が動きます。
何秒間継続して発声できるか、どの程度口を開くことができるかなどを測って、楽しみながらトレーニングを継続することで次第に口腔機能の向上につながります。
おでこ体操
- 手のひらとおでこをつける。
- 手のひらとおでこを軽く押し合うようにする。
- おへそをのぞきこむように意識して、5つ数える。
飲み込みに関連する筋力をアップすることができます。(※首に痛みのある方や高血圧の方は避けましょう。)
パタカラ体操
パタカラ体操はお口の代表的な体操の一つで、食べ物を上手に喉の奥まで運ぶ一連の動作を鍛えるための運動です。
高齢になると筋肉が弱まり、お口の周りの筋肉や舌の動きが悪くなります。その予防・改善が目的です。
パタカラ体操の効果
パタカラ体操には、次のような効果が期待できます。
- 噛む力、飲み込む力の維持・向上
- だ液の分泌の促進
- 発音がハッキリする
- 入れ歯が安定する
- 表情豊かになる
- 口呼吸ではなく、鼻呼吸に戻すことで口腔乾燥を防ぐ
- いびきや歯ぎしりの改善
パタカラ体操の方法
「パ」唇をしっかりと閉じて発音
「パ」は、破裂音であるため、唇をしっかりと閉じてから大きく開けて発声するようにしましょう。
唇は食べ物をお口の中に取り込み、こぼさないようにする役割があります。お口をしっかり閉じなければ中に入れたものがでてきてしまいます。
「パ」の動きは、食べものを咀しゃくするときにお口からでてくるのを防ぐ効果もあります。
「タ」舌を上顎にしっかりとつける
「タ」は舌を上顎にしっかりとつけて発音します。
食べ物を噛むときや、噛み終えた食べ物を飲み込むときには、舌の全面が上顎にしっかりとついていなくてはいけません。
舌が上顎についていないと、食べ物を押しつぶしたり、飲み込んだりすることができないためです。
「タ」の発音は上顎から下顎へ舌を打ちつけるので、舌の筋肉のトレーニングになります。
「カ」の音は喉の奥に力を入れる
「カ」は喉の奥に力を入れて、喉をしめるて発音します。
食べ物を飲み込むときに誤って気管に入らないよう、喉の奥を閉じる必要があります。この機能が低下していると、誤嚥したり、むせたりする原因になります。
「カ」の動きは、喉の奥をしめるトレーニングになるので、誤嚥やむせを防ぐ効果があります。
「ラ」の音は舌を丸める
「ラ」は舌を丸め、舌先を上の前歯の裏につけて発音します。
食べ物をお口の中まで運び、飲み込みやすくまとめるためには、舌がよく動かなくてはなりません。舌をうまく使うことができないと、食べものを飲み込むことが難しくなります。
「ラ」の発音は、舌を使って食べ物を喉の奥へと運ぶためのトレーニングができます。
ポイント
さまざまなパタカラ体操
- 「パ」「タ」「カ」「ラ」と1音ずつ発音する。
- 「パパパ……」「タタタ……」「パタカラ、パタカラ……」と連続して発音する。
- 文の発音パ・タ・カ・ラを含む文を発音する。
よく使われているのが「パンダの宝物」という一文で、「パンダのたからもの、パンダのたからもの……」のように発音します。
パタカラ体操はとくに、口・舌の準備運動として食事の前に行うことをオススメします。ゆっくり、はっきり声に出すことを心掛けて取り組んでみましょう。
トレーニングのポイント
オーラルフレイルのためのトレーニングをご紹介しました。お口の健康=“健口”は全身の健康につながります。
オーラルフレイルを予防するためにはお口の健康を意識することが大切です。まずは簡単な動きから始めてみて、ご自身のお口の状態を知ることもオススメです。また、お口の運動だけでなく、ご紹介したような首や肩の運動。その他にも、全身の運動などを行なって、フレイルの前段階であるオーラルフレイルを予防しましょう。
まとめ
お口の健康を支える方法は、歯科衛生士や歯科医師による専門的なケアはもちろん、しっかりとセルフケアを行うこと、パタカラ体操のようなトレーニングに取り組むことなどが挙げられます。
お口やお口の周りの筋肉を積極的に動かすことでだ液の分泌を促進し、摂食・嚥下、発音機能の維持・改善につながります。また脳に刺激を与え、顔の表情を豊かにする効果も期待できます。
まずは意識するところから始まります。「オーラルフレイル」のことを知り、ご自身やご家族にあてはまるところがないかチェックしてみてください。そしてあてはまる方は、トレーニングに取り組みましょう。
オーラルフレイル予防はDSセルリアの口腔リハビリテーションで
当社では口腔リハビリテーションを訪問看護とトータルリハセンターで提供しています。
「トータルリハセンター(TRC)」では、身体のリハビリに加えて、摂食・嚥下機能訓練や口腔清掃など、口腔機能向上のためのプログラムを提供しています。
「DS訪問看護ステーション」では、看護師や療法士がご自宅に訪問し、食事や会話を楽しむためのリハビリや日常生活に沿ったリハビリなど、その人にあった看護・リハビリテーションをご提供します。
施設見学・ご相談は随時受け付けております。
ご自宅での介護に関してお困りのことがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。